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これまでの集団検診実施と内容

 私たちは、被害者の方々に対し、医療事業として、検診、治療費援助、薬代援助金給付などを行っています。また、調査研究事業や政策提言、講演会、広報活動などを通じて、被害者の方々に対する抜本的な救済が行われるよう、働きかけていきます。

① 2006. 03. 第1回集団検診(ハルビン)
​ 被害者参加人数:チチハル被害者42名、敦化被害者2名、1970〜1980年代に被害にあった7名

 初めての検診です。1970〜80年代の被害者の多くは、20年から30年経過した今でも、「皮膚のびらん・痒み」、「皮膚のケロイドと知覚過敏」、「流涙」、「視力低下」、「口渇」、「呼吸困難」、「咳が止まらない」、「痰が多く、切れにくい」、「時に血痰が出る」、「胃腸の具合が悪い」、「力が入らない」などの症状が続いていることがわかりました。また、チチハルの被害者では高血糖や免疫系の異常が多数みられました。
 さらに、事故後、ほとんどの人が定職に就けず、生きる力を失っていることが、聞き取りから伺われました。また、事故直後に周囲から向けられた差別的なまなざしは今も続いており、就学時の子どもたちは「近所の子どもと一緒に遊んでもらえない」などの実態も明らかになりました。「化学兵器による被害」は、適切な治療を行えば感染しない」ということを伝えていかなければなりません。
② 2008. 03. 第2回集団検診(ハルビン)
 
 被害者参加人数:38名
 
 ほぼ全員に基本的な検査(血液検査・心電図・胸部X線・痰培養・免疫機能検査)を行い、症状により CT スキャン検査を追加しました。また毒ガス被毒による日常生活への影響を知るために QOL(生活の質)アンケートも実施ししました。
 今回の検診では視覚・触覚・痛覚・自律神経の障害など様々な神経学的所見を新たに見出すことが出来ました。被害者のほとんどは視覚失行を含む高次機能障害(大脳皮質の障害)が疑われ、特に小児の被害者では学習障害がみられ、マスタードガス ( びらん性毒ガス ) の中枢神経系への慢性的な影響の可能性が指摘されました。
 そして、より詳細に神経学的な診察をするため、同年10月末に15名の被害者の方を追加検査しました。(ハルビン)

③ 2010. 03. 第3回集団検診(ハルビン)
 血液・免疫・呼吸機能・喀痰(細胞診・培養)・心電図・胸部レントゲンなどの検査を実施。さらに参加した被害者のうち31名が、筋力テスト・視覚記銘検査・視野検査・頭部CTスキャン等の検査を行いました。
 内科的な症状は、気管支粘膜の腫れ・血液中の中性脂肪の増加等が見られましたが、全体的に落ち着いてきており、急性期を過ぎて慢性期に移行している印象がありました。また、今後10数年後に迎えるであろう肺がん・皮膚がん等の発症の可能性を視野に入れた、予防・早期発見のための検診の必要性が指摘されました。
 神経被害については。頻尿・下痢・発汗(特に手足)・運動中の筋力の急速な低下・眩しさ・感覚障害・易疲労性(疲れやすさ)・記憶力の低下のうち特に記銘力(新たな経験を記憶する能力)の低下・息苦しさ・眼球運動障害等が多くあることが、改めて確認されました。
 今回の検診では長期記憶の検査を実施しませんでしたが、若い被害者の中には、1年前の来日の記憶をすっかり失っている被害者もおり、さらなる調査が必要ということになりました。
④ 2012. 06. 第4回集団検診(ハルビン)
 場所の関係で、小規模で行いました。今回は小児神経内科専門医が初めて検診に参加しました。
被害者の長期記憶の障害の点は深刻です。長い間記憶しておくことができないので、例えば、学校での教育や、日常生活で覚えるべきことが学習できていないことが心配されます。
⑤ 2013. 03. 第5回集団検診(ハルビン)
 内科的には、第3回検診から脂質異常症が見られ始めていましたが、悪化している方が見られました。野菜やお粥・饅頭等の炭水化物中心の食生活と脂質異常の関係を検証する必要があります。腹部超音波検査では、慢性肝障害・脂肪肝・腎結石・胆嚢炎の方がいました。
 神経症状としては、自律神経障害のうち、頻尿・下痢・多汗は軽減した印象がある一方、歩行が不安定(運動失調)等、小脳の機能障害が疑われる症状が見られました。高次脳機能障害としては、記憶力低下が全員に、また記銘力と注意機能等の低下が多くに認められ、「全般性認知機能障害」が生じていると考えられました。

⑥ 2014. 10. 第6回集団検診(ハルビン)
 
 被害者参加者人数:29名
 
 体力、高次脳機能検査に加え、MRI や胃カメラ、神経伝導速度等々の検査も加わりました。
 内科については、高コレステロール血症、高脂血症の増加などの傾向が強まっていることが確認されました。また、神経内科では、自律神経系について、副交感神経系での改善が見られましたが、交感神経系では改善していませんでした。高次脳機能障害についても、改善は見られませんでした。
⑦ 2017. 11. 第7回集団検診(チチハル)
 被害者参加者人数:39名
 
 N P Oになってから初の検診です。チチハル市の病院の医師と共同で、MRI・エコーなど網羅的に検診を行いました。
 内科の診察でかなり重篤な方もおられることがわかり、はっきり肺ガンの徴候がみられる人、心臓機能が低下している人もいました。
 また、神経内科の診察で、さまざまな症状がみられます。不眠を訴える人、頻尿の訴えのある人、眼の異常(光りがまぶしい)などのある方などがいました。自律神経の障害となる方々です。
 帰国しての最初のNPO事務局会議で、緊急に治療の必要な方について、精密検査を実施して、どうしても手術・入院など重篤な方には、特別な支援カンパをお願いして治療をすすめていただくことを決めました。
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